2013-01-01から1年間の記事一覧

イギリス人文科学PhD事情:アドミッション

PhD

そろそろ出願シーズンなのでこんなのも書いてみようかと。前の記事と一緒で、これはあくまで僕が自分の学部での例をもとに考えているだけなので、歴史学以外とか別の大学とかだと事情がやや違うことも十分考えられます。一応Disclaimer。僕は2010年秋入学の…

自閉症の僕が飛びはねる理由/ The Reason I Jump (2007/2013)

まだ読んでないのだけどこれは書かなくてはいけない。本の紹介はamazonのリンクに譲るとして、この訳書が英語圏でどれだけ広まっているかについて。自閉症の僕が跳びはねる理由―会話のできない中学生がつづる内なる心作者: 東田直樹出版社/メーカー: エスコ…

CHIMERICA (2013)

【軽いネタバレあり】http://www.chimerica.co.uk/  主要紙のレビューでことごとく5つ星を取った演劇。89年の天安門事件の際に戦車の前に立ちはだかる男の写真を撮ったNYTの記者が、2012年に彼がNYで生きているという手がかりをつかみ奔走する。いっぽう北…

Zadie Smith, NW (2012)

http://www.amazon.co.jp/NW-Zadie-Smith/dp/0141036591 If you have not lived in London the impression you get from this novel will be very different from those held by Londoners. Even if you do not live in NW (postcode for Northwest London),…

イギリス人文科学PhD事情:TA(ティーチングアシスタント)

このブログに来る人の大半はイギリスの博士課程に興味を持って来てくれるみたいなので、そういう人に役に立つ話もたまにはしようと思って書いてみます。10月から新学年です。昨年度はTAで一年生の授業のゼミをひとつ持っていたのですが今年はやらないことに…

大江健三郎『万延元年のフットボール』(1967)

おっそろしい本。これのまともなレビューが書けるようになるにはあと3回は読まないといけない。四国の山村出身の兄弟を主人公とする。彼らの曽祖父の弟が率いたとされる万延元(1860)年の農民一揆と、村に帰ってきた兄弟のうち弟が仕掛ける暴動、という2つの…

藻谷浩介・NHK広島取材班チーム『里山資本主義』(2013)

資源高に伴う貿易赤字への転落、高齢化・生産年齢人口の現象に伴うデフレ、実体経済の成長が頭打ち、といった日本の置かれた諸状況に対処する方法として、藻谷とNHK広島取材班のチームが提唱するのは、言わば資本主義のゲームを半分降りるアプローチである。…

映画「立候補」(藤岡利充、2013)

決められない政治を嘆き二大政党制導入の失敗を嘆き失望とシニシズムに逃げこむ前に眼玉をかっぴらいて観るべきドキュメンタリー。「泡沫候補」と言われ、なぜ立候補しているのかよく分からない人たちの考えをを知るためではない。それもいいけどもっと本質…

松浦寿輝「半島」(2004)

最初の二行を読んで、何これ、保坂和志?と思った。ぐねぐねといつまでも終わらない文章で、ただ保坂よりも妙に思弁的でとっつきにくい。軽い口調で切りもみ下降して意外な着地点に至る保坂節の小気味良さはない。とは言え、最初の数ページを過ぎると一文の…

辻原登「村の名前」(1990)

日本の商社の男が畳の材料の藺草を求めて中国の湖南省長沙から山奥へ入って行く。貿易公団の男に連れられて行った桃花源村では共産党の論理が昔からの共同体の上に乗っかり二層構造を成している。北京語の世界と村の言葉の世界。じりじりした暑さ、何かがお…

真山仁『ベイジン』(2008)

山崎豊子の小説に似すぎていて、彼女の『大地の子』を超えているかと問われると疑わしいが、21世紀初頭の中国を描いた点で独自の価値はある。ただ山崎豊子を超えるためには、彼女の描いた時代の中国にはなかった超格差社会のコントラストをもっと明示すべき…

生産性を上げる訓練をしたい

今月の学会が終わったので、3ヶ月くらい思い切って研究から離れて、生産性を上げる訓練をしたい。書きながら悩んでいる時間をエリミネートしたいし(”NEVER TWEAK!”)、情報管理のルールを確立したいし、10000語前後をまとめて平易に書く能力をつけたい。今…

グローバルな英語について英語で書いてみる

Yokichi Koga, a venture capitalist based in Palo Alto, gives a jab to Japanese people who value fluency in English in global business just way too much. The ability to make yourself understood, by tailoring the message to your counterpart,…

8500語で止まっている

8500語くらいでぴたりと筆が止まっている。あちこち思考が拡散して手に付かない。休みが足りないんじゃないが、何が悪いのかわからない。カリキュラムがなさすぎて放り出されている感じなのは今に始まったことではなくて、それをadvantageだと思って好きなよ…

先のこと

博士論文提出予定まであと830日くらい。一日100語くらいずつ書いていけば間に合う見込み。今日みたいになかなか進まない日もあるが。

平野啓一郎「かたちだけの愛」(2010)

溜息の出るような、磨き上げられた語り。交通事故で片足を失った女優と、彼女を事故現場で助け出し、さらにその義足をデザインすることになったプロダクト・デザイナーの物語。途中でAimee Mullinsという実在の義足の女優のTED Talkへの言及があるので、読み…

イザベラ・バードのハワイ紀行 (2005[1876])

イザベラ・バードは明治初期に日本の奥地を旅行して紀行文を残したことで日本人に知られているが、1874年にはハワイに半年間滞在している。この本はバードがハワイから出した手紙を訳したもの。手紙の内容は土地の地理的特徴、植生、旅行記がほとんどだが、…

マイク・デイヴィス「要塞都市LA」(1990)

アメリカ都市社会学の古典らしい。ロス市警が公共建築の操作を通じて人種差別に基づいた社会階層を固定化させ、白人コミュニティをゲートやセキュリティ設備で囲んで分断した都市を作った、と。議論の正当性は正直確信は持てないのだけど、社会学の論文はや…

池澤夏樹「花を運ぶ妹」(2000)

きのう読んだ瀬島龍三の話でインドネシア賠償が出てきたが、今日の小説「花を運ぶ妹」はインドネシアのバリ島を舞台に起こる。二人の主人公である姉妹の独白を一章ごとに繰り返す手法は若干見馴れたものだが、兄の独白のほうを二人称を使うことによって区別…

【レビュー】沈黙のファイル: 「瀬島龍三」とは何だったのか(共同通信社社会部編、1996年)

大日本帝国陸軍大本営参謀として南方での対米作戦を立案。戦後は東京裁判においてソ連側証人として証言。その前後合わせて11年間シベリアに抑留。帰国後は伊藤忠商事で次期主力戦闘機受注、インドネシア・韓国への戦後賠償に伴うビジネスを手がけ、歴代総理…

【レビュー】Tokyo Year Zero (2000)

イギリス人小説家David Peaceの東京三部作の第一作。第二次大戦直後の東京で実際に起きた連続強姦・殺人事件を題材に東京の混沌と人々の生活を描く。警視庁が殺人事件の犯人を突き止めていくミステリという要素は当然あるのだが、自分が人に紹介するなら40年…

一週間のオフをとる

この一週間のあいだは研究に直接関係する史料、文献を読まない。休むのはいつでも怖いがいつまでもそう言って低効率の作業をしてはいられない。

Elementarteilchen (Elementary Particles)

ヒッピーの母親が産んだ、父親の違う二人の息子が対照的な性格を持つ人物に成長し対照的な人生を歩む。中心に描かれるのはセックスに対する両極端の態度。種の保存のための再生産という面と、快楽への手段という面の間に恋愛がある…ってそりゃ当然なのだけど…

塵の積もるように作られるロンドンと東京の印象

たぶん明日というか今朝すごく眠くてこれを書いて夜更かししたことを後悔するだろう、飛行機の中で寝てしまって、見るはずだった映画を見逃し片付けるはずだった仕事を積み残し、それは翌週まで影響を引きずるだろう、でも20年後、僕はこの文章を書き残し…