松浦寿輝「半島」(2004)

最初の二行を読んで、何これ、保坂和志?と思った。ぐねぐねといつまでも終わらない文章で、ただ保坂よりも妙に思弁的でとっつきにくい。軽い口調で切りもみ下降して意外な着地点に至る保坂節の小気味良さはない。

とは言え、最初の数ページを過ぎると一文の長さはだいぶ落ち着いて、独白と三人称の文章を極めて自然に混ぜ合わせるところに作者の地力を見ることになる。混ざりあうのは語り手の視点だけではない。主人公の体験は現実と夢想のあいだをいつの間にか往来し、過去の回想が現在の描写と主人公の思考の合間に見え隠れする。うまい。しっかり文学してる感のある小説。

ただ、主人公の観念的一人相撲に語りの重心がありすぎて、他の人々の行動の動機はあまり説明されない。世間のめんどくささから逃げて半島に辿り着いた主人公は、人との関わりかたを大きく変えることなく、最後まで、自分以外の誰とも正面から対峙することなく酒を飲んで酩酊している。

★★★☆☆