辻原登「村の名前」(1990)

日本の商社の男が畳の材料の藺草を求めて中国の湖南省長沙から山奥へ入って行く。貿易公団の男に連れられて行った桃花源村では共産党の論理が昔からの共同体の上に乗っかり二層構造を成している。北京語の世界と村の言葉の世界。

じりじりした暑さ、何かがおかしいと訝る主人公、一瞬現れては消える古い村。辻原の描写は無駄がなく鋭い。一見現実離れした空間に世俗的なプロットが織り込まれている、そのバランスがいい。終わらせ方がやや淡白な感じもするがそこを追及するともっと長い全然別の小説になってしまっただろう。

★★★★☆