【レビュー】Tokyo Year Zero (2000)

イギリス人小説家David Peaceの東京三部作の第一作。第二次大戦直後の東京で実際に起きた連続強姦・殺人事件を題材に東京の混沌と人々の生活を描く。警視庁が殺人事件の犯人を突き止めていくミステリという要素は当然あるのだが、自分が人に紹介するなら40年代後半の日本を描いた歴史小説と言うだろう。不完全文と反復を多用する文体が独特の不安定なリズムを作って、語り手である刑事の心象の混乱、東京の荒廃を浮かび上がらせる。闇市を仕切るヤクザ、田舎の農家、食料を求めて右往左往する東京の人々、進駐軍を相手にする売春婦、といった人々の生きざまが重厚に描かれている一方、進駐軍の兵士たちだけが極めて薄い存在感しか持たされていない。最後に明かされる主人公の刑事の秘密も予想していた部分とは若干異なった点に用意されており、やや肩透かし感が残った。大事なのはそっちではないのでは、と。とはいえここまでのディテールをもって占領下の日本社会の様相を提示した作者の腕は確かなもので、残り二冊も読む気にさせられる。