【レビュー】沈黙のファイル: 「瀬島龍三」とは何だったのか(共同通信社社会部編、1996年)



大日本帝国陸軍大本営参謀として南方での対米作戦を立案。戦後は東京裁判においてソ連側証人として証言。その前後合わせて11年間シベリアに抑留。帰国後は伊藤忠商事で次期主力戦闘機受注、インドネシア・韓国への戦後賠償に伴うビジネスを手がけ、歴代総理の相談役、調整役として策動。これらを通じて戦中、戦後日本の権力の中枢にとどまり続けた瀬島龍三の半生を追いつつ、陸軍中堅幹部の暴走、敗戦直後の満州を巡る対ソ交渉、シベリア抑留下でのスターリニズムの浸透、冷戦下の東京での米ソのスパイ合戦などが当事者の証言と史料調査を基に語られる。ヴェルサイユの反省と冷戦構造を背景に日本の戦後賠償は現物とされ巨大な商機を生んだ、参謀本部作戦課の対米開戦派がソ連から南方に重点を移して開戦を不可避にした、といった主な主張はこれまでの自分の理解とそう離れていないが、この本だけでは時系列を網羅していないので他の文献との比較参照が必要だろう。