山口昌男「知の遠近法」

何となく目に止まって図書館で借りてきたんだけど、期待以上。てかこの人常識の範疇に入る人なのか? 知らなかった俺が教養がないのだろうか? カバーが外されてて著者略歴が本になかったので検索したらなんだか謝りたくなってきた。てかこんな人が教えてたのか麻布中学

知の遠近法 (岩波現代文庫)

知の遠近法 (岩波現代文庫)

中央公論」と「思想」に載ったエッセイのまとめなんだけど、第二章「噂がひとを襲うとき」が示唆的。著者がインドネシアで人類学の調査中に手違いで婦女暴行容疑をかけられ警察に喚問された、という話から始まって、同様の嫌疑でアメリカ映画界で名を成した芸人が大衆に罵倒され破滅に追い込まれた事件、日本の大学教員が週刊誌から袋叩きにされた事件(前者は濡衣なのだが後者は既遂だと女性が訴えている)の経緯が語られる。途中で魔女狩り事件とか「オルレアンの噂」という社会学で取り上げられるらしいケースとかが参照される。どれもこれもこの間日本で吊るしあげられた人の話に似すぎていて驚く。最近の報道の劣化云々、と言う人がいるか知らないけど、こういうのを読むと使えるテクノロジーがなんであれ人間のやることは昔から変わっていないのだなと思わされる。

他の章では天皇制からのらくろウィトゲンシュタインまでカバーしてもっと堅い話をしています。久々に勉強したくなる本です。