猪木武徳『大学の反省』

これは素晴らしい本。

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本書で強調したかったことは次の三点に要約することができる。
第一に、現代の日本の大学(とくに研究大学)は、専門職の教育、そして研究活動に多大なエネルギーを注いでいる。教養教育は単なる装飾品同然の状態になってしまった。大学における本格的な教養教育の復活と「教師」という職業の尊重こそ、筆者の本書での最大の強調点である。第二に、日本の教育への公財政は、とても教育大国、文化国家と言えるような規模ではない。日本で高等教育の重要な一翼を担ってきた良質な私学への財政的な支援を強め、公財政の教育への支出を増やすこと。そして第三に、教育研究は長期的視点が必要な活動であるから、研究組織や教育の内容や成果の評価を短期的な要求や都合で変えないことが重要だということである。この長期的な視野という点からも、教養教育の意義を問いなおさねばならない。

主旨は筆者が上のようにまとめていますが、これ以外にもアメリカやドイツ、フランス、イギリスの大学との比較のデータとか各国の管理職がどんな教育を受けているのかとか、興味深い統計が並んでいます。それから、「専門的職業人とエリート」という章の主張はとくに首肯せざるを得ない。「言葉の闘い」に参画できる人物を増やすこと、「『公共性』について配慮できる専門家グループ」の必要性など、官僚/シンクタンク/コンサル/弁護士の卵の人はとくに面白く読めると思います。この本で議論される専門性は基本的に人文社会科学のことです。