消費せよ

消費せよ、という声が絶え間なく聞こえてきます。

香港とバンコクに行ってきました。どちらの場所でも、僕の周りには常にモノを買う、お金を使うという選択肢がありました。要するにお店に囲まれた生活でした。香港は町全体がショッピングモールを平らにならしたかのように店が広がっているし、中でもブランドの店がそこらじゅうにあります。えげつないくらいに。

香港では、気の利いた大学生はdecodeして香港でも使用可能にしたiPhoneで講義を聞いている間も株価をチェックし、必要なら売買する。日本の大学生と違って、彼らにはお金を稼ぐ手段としてバイト以外に投資がごく普通のこととして認識されているようです。だから香港でブランド物のバッグを持っている学生を見かけたら(実際そこらじゅうで見かけますが)、偽物である確率は低そうです。だって投資で儲けて本物のヴィトンでやってくる友達がいるのに、自分が偽物を持って行けないでしょう?

(ちなみに、バイトの給料はそこまで高くないようです。飲食店の店頭にある求人広告には時給が書いていなかったのでわかりませんが、家庭教師に関してはトップクラスの大学生を雇っても時給2000円に届かないくらい。)

香港科学技術大学というところで会計学を専攻していて秋から某大手会計事務所の香港オフィスで働く友人が、こう言い放ちました。

「香港で政治や芸術を勉強しても未来はないよ」

人気のある専攻はもちろんaccounting, business, finance.
Economicsですら十分にpracticalではないという理由で上の三つに比べると将来の見通しが立ちにくいと、少なくとも僕の友人は考えているようです。

消費せよ。稼いで、消費せよ。

バンコクの話。バックパッカーのメッカ的存在でもあるバンコクですが、今回僕が泊まったところは有名なカオサン通りとか旧市街からは少し離れたところでした。市内最大のショッピングモールまで徒歩10分。そこから歩いていける範囲に、ひとたび中に入ったら確実に道に迷える巨大なモールが5つあります。

イギリスに留学していたころ、買い物をする場所といえばバスと電車を乗り継いで1時間くらいのところにあったバーミンガムのBullringというモールでした。とりあえずブランド物の店が所狭しと並んでいて、中央に吹き抜けがあってその回りをらせん状にエスカレーターが取り囲んでいて、地下にはでっかいフードコートがある。

このBullringというモールに、バンコクのモールの一つがそっくりでした。建物の作り、店舗の配置、値段もそう変わりません。Paul SmithのTシャツはバンコクでも1万円以上するし、コンバースのオールスターはイギリスでも3000円くらいで、バーゲンならもっと安く買えます。

もちろん何から何まで同じではありません。バンコクのモールでは圧倒的に外国人が目立ちます。旅行者なのか居住者なのかはわかりませんが、一般のバンコク市民が皆ここで買い物するわけではありません。

(ただフードコートの価格設定は良心的で、昼時になると隣接するオフィスビルで働く人たちがどっと押し寄せます。)

またバンコクのモールには映画館が入っていて、その辺には高校生の集団が目立ちます。「他にやることもないし、みんなモールに行くの」とタイ人の友人は言ってました。

それでも、中心にあるメッセージは一緒です。消費せよ。バンコクの5つのモールは連絡通路でつながっていて、一度入り込むとものすごい距離を歩かされることになります。同じブランドを何度も見かけますが、それは複数の店舗を出しているからです。ラコステのポロシャツなんか、5箇所くらいで見た気がします。行きたい店が決まっていても、フードコートで飯を食いたいだけでも、とりあえずは左右に広がる圧倒的な量の商品群を横目に見ないわけには行かない。そこで目にしなければ買おうと考えもしなかったものが、あなたの記憶にしがみつき、いつか行動に影響する。

別に僕は何かを批判したくてモールについて書いてるわけじゃありません。僕が言いたいのはこういうことです。モノを買う、お金を使うという行為は人の価値観の深いところに達してどっかりと根を下ろし、社会全体に甚大な影響力を及ぼす。ショッピングモールというのは、憧れの見本市みたいなものです。みなさん、頑張ってお金を稼いで、いつか私のところで使ってください。かっこいいものをたくさんそろえてありますから。あなたの生活の目標をここに定めるんです。準備はいいですか?





ようい、どん!