定量分析のインパクト
会った人によく聞かれるのが「今なにしてるの?」というとても答えにくい質問なのですが、答えの代わりとして最近読んだ本を三冊紹介。
- 作者: スティーヴン・レヴィット,スティーヴン・ダブナー,望月衛
- 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
- 発売日: 2006/04/28
- メディア: 単行本
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すっごく面白かった。経済学(というか統計、計量分析)を使うとこんなことがわかるのか。学校の先生が生徒の答案に細工したのを見抜いたり、90年代にアメリカで犯罪率が激減した理由を示したりする。
この中で出てきた八百長の話をロースクールに通っている友人にしたら、「そういう統計データは裁判の証拠として使えるだろうか?」というすごく面白い論点を提示してくれました。こういう展開があるから、専門が違う人と話すと面白いです。
The Logic of Life: The Rational Economics of an Irrational World
- 作者: Tim Harford
- 出版社/メーカー: Random House
- 発売日: 2008/01/15
- メディア: ハードカバー
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扱ってるテーマは似たようなもの。同じ経済学者(黒人差別の研究をしてるフライヤーという人)が紹介されてたりするし。
こっちは、人々のいっけん合理性なんて関係なさそうな行動にもちゃんと合理性(あるいはインセンティブ)を見出せるよ、という感じで、なんでNYみたいに物価が高い都市にみんな好んで住むのかとか、ワシントンDCでは白人居住区と黒人居住区がきれいに分かれちゃってるのは本当に皆が筋金入りの差別主義者だからなのかとか、そういう疑問に答えていく。
- 作者: イアン・エアーズ,山形浩生
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2007/11/29
- メディア: 単行本
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すげー面白いと同時にかなり怖い。本文中では「絶対計算」と訳されている、膨大な量のデータを使った定量分析によって、昔では考えられなかったようなことが可能になっているという話。いくつか例を挙げると:
・どんな映画脚本が売れるかをデータから明らかにして、興行収入を予測する。
・建設工事入札で談合が行われているのを発見する。おっ、と思ったのは、この結果が論文にまとめられた結果、二人の入札官が逮捕されたらしい。公開されていないのか、明確には書かれていないが、筆者の書き振りからするとそんな感じだ。つまり、統計分析の結果が証拠として認められたんではないかと想像できる。
・どんな開発戦略、貧困削減戦略が本当に成功するかを調べる。これはメキシコで行われて大きな効果を挙げたらしい。
・アメリカ最高裁判事9人がどんな評決を下すかを予想する。事件の背景とか過去の判例とかをまったく無視したかなり単純な「絶対計算」のアルゴリズムで、法学専門家の集団よりも精度の高い予想ができるかを実験した結果が書かれている。
この本の筆者の結論としては、
人間の判断よりも定量分析のほうがよっぽど確実だから、勝ち目ないよ。人間はどんな変数を選ぶかの判断をするという点で意味があるけど、あとの考える部分は全部「絶対計算」にとってかわられちゃうぜ。絶対計算のマーケティングに騙されないために、理性的な判断を下すために、とりあえずみんな統計の基礎くらい知っておくべきだよ。
みたいな感じです。
そういう世界は生理的に嫌な気もするけど、分析自体はめっちゃ面白そうだと思う。
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ちょっと話が変わるんだけど、上の3冊を読んだ中で一番感動したのは「ヤバい経済学」の序章の扉部分の挿話です。著者のレヴィットがハーバードの奨学金をもらうための面接の様子が書かれています。どんな内容だったのか気になる人は本屋で確かめてみてください(残念ながらこの本はアマゾンの「なか見!検索」ができません)。